「コルナゴがグラベル?」
という風に思う人は少なくないかもしれない。かく言う自分もその1人。コルナゴは純然たるロードバイクを作ってくれたらええねんとオッサンのような思考もなくはないが、新しく生まれてきたものはなるべく受け入れていきたい。試乗車も借りれたことだし、食わず嫌いしては勿体ないだろう。

ちょっと脱線。
インプレ記事、データがどうの信憑性がどうのと突っ込まれることもあるので、正直なところ最近は書くことに億劫になっていた部分もある。
でも、いざ自分が商品を買う側に立った時、やっぱり嘘でも本当でも、とにかく情報は欲しい。できればリアリティのあるもの。実際に手にした人が感じたことを書き綴って欲しい。
先日、三十路ながら普通自動車の免許を取ったのだが、レンタカーでいいやと思っていた自分も、いざ免許を取得すると車が欲しくなってしまい、毎日のように「どんな車があるのか?」「この車はどんな車か?」とネットの海を泳いでいる。
という経緯から、折角なのでこのG3-Xも自分なりの話を残しておこうと思った。

受け継がれるコルナゴのDNA
コルナゴのロードバイクを所有することまではなかったが、歴史あるメーカーだけあってクロモリからカーボンフレームまで多くのコルナゴに乗る機会があった。素材による差やモデルによるコンセプトの違いはあれど、どのバイクからも”レース”の気配が漂っていたし、「本気で踏んでみろ」と訴えかけてくるような気がしてくる、そんなメーカー。
あくまでそれは僕が思うコルナゴの印象であって、人によって感じ方は違うと思う。やはりツールドフランスを始めとしたロードレースと共に歴史を歩んできたことは大きいと思う。価格の高さから「お金持ちが買うバイク」と揶揄されることもあるが、ロードバイクを愛して乗っている/いた人たちが気に入って所有することも多いのがコルナゴである。何故かと言われれば、レーシーな乗り味に隠れてしまっているが、根本的な部分に”乗りやすさ”や”扱いやすさ”があるからだと思う。
この乗りやすさや扱いやすさという部分にも好き嫌いはある。フレームメーカーの最近(この10数年)の流れとしては、コーナーリングがクイックで鋭い(旋回半径の小さい)フレームが増えたように思う。車の軽自動車やコンパクトカーが街中で扱いやすいことからわかるように、取り回ししやすいものは世の中から求められている。
それに対し、コルナゴは長距離のロードレースを主戦場としてやってきただけあり、直進安定性が高いものに味付けされている。(超個人的感想!
直進安定性が高い自転車は、バランスを取ったり、無意識下でのハンドル操作の負担を軽減してくれる。その部分のことが、先で言った「乗りやすさ」の中身だ。長距離ライドに出かけてみれば、身体に感じる疲労感が違うことが実感できる。もちろんフレームの硬さはレースバイクのソレなので、”脚に来る”かどうかは乗り手次第なのだけど。
昔のコルナゴと言えば「レースで勝ちたかったらこの硬さを踏んでみせろ」って感じるほど”硬さ”がある印象だったんだけど、2020ツールドフランスを総合優勝してしまったUAEのポガチャル(今年も活躍中!)が駆ったV3-RSを中心に、最近のコルナゴはある意味でコルナゴらしからぬ”踏みやすい優しさ”を獲得しているように思う。それをコルナゴらしさが薄れたと哀しむ人はまぁなかなかいないだろう。
G3-X
前置きが長くなったが、いよいよ本題。

自転車において、今1番注目を浴びている「グラベルバイク」と言っても幅はある。ツーリングを目的とした強度重視、積載量重視のモデル。マウンテンバイクに近い、悪路に強いモデル。そして速く走るためのバイク。あくまでざっくりとしたカテゴライズではあるが、大体その3方向で区別できるのではなかろうか。そしてG3-Xは当然、速く走るためのバイクであった。
普段クロモリのグラベルバイクに乗っているので、借りたG3-X完成車は特に何も変えずとも速さの鱗片を感じさせるスピード感があった。やはり軽さというものは「=速さ」に限りなく近い要素であると感じる。速さ、軽快さ、そういった部分を求めない人にとって軽さは(多大なコストがかかっていても)全くの無価値となってしまうのだが、軽い自転車はとにかく楽だ。僕は、楽なことは正義だと思う。

スペック
<メーカー説明>コルナゴ初のグラベルロードとなるG3-Xは新型ロードレーサーのV3と同時期に開発されたことでフレーム剛性などの優れた走行性能で共有する部分が多く、グラベルはもちろんエンデュランスバイクとしても性能を発揮するように設計されています。
GRX完成車 480,000円(税別)
今回お借りしたバイクはDi2ではなく機械式のGRXモデル。全体的に不安感のないアッセンブルでバランスの良いセットアップはしているのだが、ホイールは大きくコストを抑えるためにシマノRS370を履かせており、正直なところ重い。しかしながら、普通に使う分には全く問題はないし、重さからくる巡行性の良さは舗装路では割と良かった。
変速は2×11のフロントダブル。グラベルではトラブルからのリカバリーの早さや重量面、変速の煩わしさを減らすということからフロントシングルも流行っているけれど、個人的には幅広く使えるフロントダブルのギアを選択していることは高評価。舗装路からダートまで全域で気持ちよく走るなら、やっぱりダブルだと思う。
この完成車に、もし少々グレードの高いホイールがセットアップされてあったとしても、物足りなさは残ることは間違いない(贅沢病)。上位グレードのアルミホイール、あるいはちゃんとしたカーボンホイールをセットした時に、G3-Xは完成される。それは細かいコンポなどの部分で金額を落とされるよりも個人的には良いと思う。中途半端なホイール程度のカスタムならば、RS370を履き続けていても大差はない。替えるなら定価10万円以上のホイールセットをオススメしたい。補足だが、ホイール交換というカスタムは、他のパーツ交換で四苦八苦していくことよりも楽であり、簡単に大きな変化を味わうことができる部分である。

乗り味
漕ぎ出しはホイールの重さを感じるのだが、先述のように慣性が働き始めるとスイスイと走っていった。さて、自転車の特色はここからである。
やはりコルナゴらしい直進安定感があって、全くと言っていいほどフラつきがない。ダートに入った際に、他のバイクはしっかりと上半身でコントロールが求められる印象があるものが多いのだが、多少の路面ギャップがあってもハンドルは取られにくく、”真っ直ぐ走ろう”とさせるフィーリングがあった。バイクの挙動を安定させることに必死になってしまうと、漕ぐことに集中しにくくなる。G3-Xはコントロールに気を取られることもなく、気持ちよく走らせてくれた。
直進安定が強いと言われると、曲がりにくいのではないかと思うかもしれない。確かに、ハンドルで曲がるようなUターンなどのコーナーリングには向いていない。しかし、車体を緩やかに倒し、コーナーを曲がり始めるとバイクが吸い込まれるようにコーナーをクリアしていくことができる。この倒し込むような形のコーナーリングはある程度乗ってきた人でないと掴みにくい部分があるかも知らないけれど、このタイプのコーナーリングは確実に速く、安定している。そのお陰で、曲がっている最中もバイクのラインが安定していて恐怖感も少ない。その分仕方ないところではあるが、コーナーリング中のライン変更の挙動は若干鈍いかなとは思った。
フレームの硬さ。ここが1番の味噌かなと思いつつ、V3-R同様、良くも悪くも癖がない。硬すぎる、柔らかすぎる、どちらかを感じることが多いのが常なのに、この自転車はそれがない。個人的には硬い部類に入るけれど、競技レベルの人からすれば特別硬くはないフレームになっている。
急斜面などの上り、轍など、グイッと踏まなければならないシチュエーションでフレームの芯の強さが問われる。G3-Xで試しに攻めていったところ、(僕の脚力&体重で)はフレームが負けて腰砕けするような感覚は現れなかった。その辺、クロモリフレームは苦手とするところだったりするかも。
乗り味は限りなくロードレーサーの感覚に近いんだけど、ロードレーサーではない。これはコルナゴが作った、純然たるグラベルレーサーなのだろうと納得したのであった。(レーサーじゃなくても楽しめるバイクなのでお間違いなく)
プラスアルファの付き合い方として、たまに28cあたりのロードタイヤを履かせてロードバイクとして乗ってもアリかな、と。2台持ちできない人は世の中にも多いし、ロードもグラベルも楽しみたいとしたら舗装路も速いグラベルバイクを選んでみるのも良いだろう。


コルナゴがグラベル?という印象を払拭した部分のひとつに、フレームプロテクターの存在もあった。ダウンチューブ下のプロテクターはまぁよくあるものかな、とは思ったけれど、チェーンステイプロテクターは秀逸だと思った。
というのも、通常チェーンステイガードは上側しか保護していないものが多いのだけど、G3-Xは下側までしっかりとガードしたものが付けられている。RDテンションのおかげでフレームヒットは少ないといえ、暴れるチェーンはフレームを叩く。そして荒れ地を走れば、チェーンはフレームの下側も当てていくことは多い。(←シクロクロスバイクのチェーンステイ下側の塗装が剥がれまくった人)
そう、上下をしっかり守るチェーンステイプロテクターを標準装備しており、「ちゃんとわかってるじゃん」と上から目線の感想を抱いたのだった。


タイヤはピレリの「Cinturato GRAVEL H」がセットアップされていた。先に謝っておかなければいけない。めちゃくちゃ侮ってました。すみません。
ロードのP ZEROはクリンチャーとチューブレスレディと気に入って使っていて、チントゥラートというモデル名から勝手に期待値が下がっていた。実際の乗り味はロードのP ZEROにも通ずるものがあって、よく転がるのにグリップが効くという感じ。それは舗装路よりもグラベルを走ってる時に強く感じた。
グラベルを走った時は空気圧を1.8barあたり(シクロクロス的な)まで落としてクッション性重視で走るのが好みである。そうすると普通どうなるかというと、転がらなくなっていくのだが、このタイヤは良く転がってくれた…。登り返しのような急斜面でもタイヤは空転しにくく良く噛んでくれたし、総合的にバランスが良いタイヤだった。舗装路からダートまで満遍なく楽しみたい人にはオススメできるタイヤだと思った。

総評
仕事柄、完成車ではなくフレームからバラで組むことが多く、また多くの完成車はパッケージでの価格勝負のためにパーツ類でのコストダウンをしているメーカーが多い。それが悪いこととは思わないけど、自分が買おうと思った時に物足りなさを感じるのは本音である。
このG3-Xはフレームだけでなく、パーツアッセンブルの部分まで含め、ほとんど妥協を感じさせることなく組まれていることがよくわかった。何事も組み合わせにはバランスがある。もしG3-Xが柔らかすぎるフレームだったらRS370という鉄ゲタを許容できないし、例えばフレームが激重だったとしてホイールを軽量なもので重量を誤魔化していれば、そういった自転車も走りは良くない。このG3-Xはとてもバランスの取れたセットアップであるし、先でのカスタマイズの方向性もわかりやすく、手にしたユーザーが真っ直ぐと進んでいくことができることは、とても真摯な印象を受けた。
じっくりとG3-Xというバイクと向きあってみて、コルナゴがまた好きになった。
ギャラリー













