「寒いのはよしてくれ」と、車に当たる雨の音を聞きながら目が覚めていく。雨という受け入れたくない現実を前に、再び寝てみるがまたすぐ起きる。周りも準備を始め、もう寝ていることが許されなくなるタイミングまで寝ることを繰り返した。
金曜日の晩に仕事を終え、そのまま大津谷公園キャンプ場に向かった。いろいろと準備しながら到着したのは土曜の午前4時の手前だった。僕らはそのまま車の中で明日を迎えることにした。朝、bike2saunaのために集まり始めるメンバーたちの表情は少し不安そうな印象もあったが、それ以上に楽しみに期待を膨らませた表情がとても印象的だった。
スロースターターな性格も相まって、寒さに震えることに耐えられないという恐怖を振り切ることができず、服部君と一緒に参加者のサポートに回ることにした。参加者はotakuhouseが引いてくれたプリミティブなライドルートに感嘆の声を漏らし、僕はその姿をカメラ越しに眺めながら自転車で走ることができなかったことを残念に思ったことは言うまでもない。(言ってる)
「日常」と「非日常」
現代人は一昔前と比べ大きな可能性を持っているような時代になったと思わせる反面、実際は増えていく”明確化されたルール”に縛られてしまい、社会という大きな川の流れに合わせていかなければダメという過酷な状況もある。
自分が小学生や中学生の時代を思い出してみると、公園で遊ぶときには多くのルールがある。近所に迷惑となる行為は全て禁止されている。
・球を使った遊び(野球やサッカーなど)はしてはいけない。
・花火をしてはいけない
・大きな音を出してはいけない
などなど、外でなければできないことの多くは禁止されている。子供の遊ぶ音が騒音であり近所迷惑なのだと。そのくせ、やけにうるさい選挙演説を住宅街でやる政治家には心底うんざりした記憶がある。選挙権のない年齢だったが、そういう活動をする政治家には絶対に票は入れたくないと強く思った。
遊ぶ場所は必然的にテレビゲームやカードゲーム、ミニ四駆といった具合にインドアになっていく。それだけならまだ良いが、将来のために良い学校に入ることはマストな時代で小学生でも受験組みの塾通いが公園の子供たちを減らしていった。
現代人は安定した生活を獲得した代償に、遊ぶ場所、遊び方、遊ぶことから遠ざかってしまったのではないかと思う。僕は塾には行っていなかったので放課後は遊ぶばかりの小学生だったが、高学年のときはクラスの半分程度が受験組みで塾の日はひとりになることが多かった。家でゲームや漫画を読むことが捗るばかりだった。(勉強しろ)
受験戦争に駆り出されていく友達を眺めながら「すごいなぁ」と尊敬していたが、常に頑張っている感があって少し辛そうな面も見えた。本人たちにその自覚があるか無いかは分からないけれど、ゆるく生きている自分の目線ではその「良い学校に行かなければ将来が無い」という状況に迫られた人たちの生活は本人達を消耗させていたように見えていた。
そうして大人になって大きな会社に入り、彼らはサラリーマンとして社会を動かしている。それは素晴らしいことだ。日本を引っ張っているのはそういった大きな能力を持った人たちであることに微塵の疑いも無い。彼らはパンパンに詰め込まれたスケジュールをこなす日常を送っている。レベルは違えど、僕も僕なりに誰かへの貢献ができることがないかと思い、自転車屋という選択をして働いている。
日常。現代人には十分過ぎる日常の流れに圧され、必死に合わせている節がある。全ての人に当てはまるわけじゃないが、恐らく同意してもらえるのではないだろうか。そんな彼らは日常の流れが及ばない世界、「非日常」を心の深い部分で求めているのだと思う。僕自身もそうで、だから今になっても自転車のレースの世界から離れることができない。
テントサウナ x 自転車
Bike2saunaというイベントは2回目を迎え、台風の最中にも関わらず無事にやり終えることができた。そして楽しむことができた。今回もかなり満足感のあるイベントになったのだが、そこに集まる人メンバーに恵まれたからに他ならないように思う。怪我の功名というか、台風という悪条件によって気持ちの浅い人たちはふるいにかけられ、「イベントを楽しみに来た」という意欲の高いメンバーだけが揃ったのである。
そこに「イベントなんだから楽しませてくれよ」という受け身の人はいない。それぞれがライドに感動し、食に感動し、サウナに感動する。音楽のライブでもお笑いのイベントでも何でも同じだと思うが、意欲を持って楽しみに行くということがイベントにとって何よりも大事なことであり、その当人にとっても有意義な時間にしてくれる。
自転車は無重力のスポーツと呼ばれるように「非日常」を気軽に提供してくれるツールだと思う。学生時代、ただひたすらにどこか遠くへ行きたくなった時にお世話になったのも自転車だろう。サウナも同様に自分だけの世界に浸ることのできる「非日常」であるが、屋外という自然の中で行われるテントサウナは更なる「非日常」を与えてくれる。
僕らは「日常」という重力から脱出した「非日常」に飢えているのだ。
山ブームやキャンプブーム、そんなブームも「非日常」がそこにあるからだと思う。テントサウナx自転車という組み合わせは、非日常同士を掛け合わせることで更なる非日常を手に入れることができる。それがBike2saunaの本質的な部分なように思う。
手作りなイベントだからこそ、参加者に助けられるなと思う部分は多く、それと同時にイベントはそこに居る人たち全員によって作り上げるのだなと実感した。これから何かのイベントに参加するという人は、少しだけ日常を忘れて「楽しみ」に没頭して非日常に飛び込んで欲しい。それだけでいつもより少し楽しめるはずだ。
Instagram #bike2sauna
photo : shiga